その他

The Bokian:A Tea House in Fluctuation( 忘機庵-ゆらぎの茶室 )

概要

ベルリン王宮内で欧州最大の文化施設「フンボルトフォーラム」内に設置される「ベルリン国立アジア美術館」の茶室設計コンペが2018年春に行われ、弊社が最優秀案に選定された。日本の文化展示室に設置される茶室は、展示だけでなく茶会の実演も行われ、見学・体験を通して茶道の精神を来館者に伝える計画となっている。

2019年6月、日本で仮組を行い施主による検査が行われた。その後、材料を2ヶ月かけて輸送し、同年11月にドイツ・ベルリンにて竣工した。現地では日本の職人とドイツの職人が協力して工事を行い、ベルリン初となる茶室は現地メディアにも多数取り上げられた。

コンセプト

設計趣旨~茶道の精神性に気付く唯一無二の茶室~

設計するにあたりまず考えたのは、茶道からつながる日本文化を表現するというより、茶道の持つ理念、精神性を来館者と共有することの重要性である。そもそも茶道は、中国から禅の思想と共に伝わったものを基とし日本で確立されたものであり、その精神性はドイツの人々を初めとする人類全てにおいて内在しているものと思う。従って、この茶室を設計するにあたり、ただ異国の文化を持ち込むのではなく、当地の風土や文化を尊重しながら、茶道の精神性に気づき、理解を促す建築表現を目指したいと考えた。
ベルリンは戦禍が残るまちである。また、その歴史を記憶に留めることにより、平和をこよなく願う市民が暮らすまちでもあると思う。そこで、この茶室の象徴として、戦争への警告碑として今もベルリンに残されている、カイザー・ヴィルヘルム記念教会の破壊された八角錐の塔屋部をモチーフとして取り入れた。茶道に深く影響を与えた老子・荘氏の教では、人間の不完全性を認識することの大切さを説いており、その不完全性さゆえに戦争と平和、破壊と創造という行為を歴史の中で繰り返して来た。
岡倉天心は茶の本の中で、「真の美というものは不完全なものを前にしてそれを完全なものに仕上げようとする精神の動きにこそ見出される」としている。本プロジェクトにおいては、まさしくその不完全性、言い換えれば人間のゆらぎを形で表すことで心に留め、茶道を通して真の美を追求しうる唯一の茶室を創造したいと考えた

工芸×建築 ~工芸と建築が融合する現代茶室~

日本の木造建築は、近代まで大工の棟梁を中心に、様々な職人が知恵を出し合い、コラボレーションしながら創り上げられて来た。そして、その建築を構成する多くの部位は一点物であり、工芸家も数多く参加しながら、固有の工芸品を建築物と一体的に創作して来た。本プロジェクトにおいては、このような日本古来の建築プロセスを現代に置き換え、提案作成段階から、茶道裏千家今日庵業躰の奈良宗久氏監修の下、陶芸家の中村卓夫氏、漆芸家の西村松逸氏、金工作家の坂井直樹氏、3名の現代工芸家と議論しながら案をまとめた。禅の思想では小さなものの偉大さを説き、茶道はその象徴的な表現行為とも考えられる。本案においてもその構成要素を創作する工芸家が空間全体について提案を行うことは、茶道の理念にも合致し、小さきものと大きなものが一体となった茶室創造において極めて重要であると考えている。