医療施設

けやきクリニック整形外科

竣工 2022年 3月
分類 医療施設
所在地 金沢市八日市
規模 木造2階建て

本計画は、金沢市八日市にて新設される整形外科クリニックのプロジェクトである。

敷地は南北に長く、北側に隣接して院外薬局の計画が予定されている。西側は、少しカーブを描きながら交通量の多い都市計画道路に接道している。数キロ先で大型ショッピングモールがオープンし、さらなる交通量が見込まれている。東側は、けやきの木がシンボルの都市公園が隣接しており、高さ10m程度の並木が敷地境界に沿って並んでいる。このような周辺環境の中で、ロードサイドの景観に埋没させず、公園の緑を生かし、患者、地域にとって親しみの持てる施設となるような計画を目指した。

建物は、比較的敷地の幅が取れる南側にL字型に配置し、北側に駐車場をまとめ公園への視線の抜けをつくった。入りやすく見通しのきく駐車場とするとともに、建物の背景としての公園の木々を見せた。駐車場にはシェルター、建物前面には乗降スペースを形成するエントランスポーチを設けた。駐車場から建物、そして北側隣地に計画される院外薬局まで、雨に濡れずにアプローチでき、患者の利便性を考慮するとともに、視覚的にも建物に水平的な広がりを持たせることができた。建物は一部2階建ての片流れ屋根としている。公園の豊かな緑を背景としながら、建物の低いボリューム、そして大きなボリュームへと水平方向から斜めに上昇していくようなスカイラインをつくり、建物へと視線が自然と誘導されるように意図した。

外観は周辺の街並みとの調和や親しみやすい印象を持たせるために淡いベージュを基調としつつ、アクセントとして木のテクスチャを取り込んで、隣接する公園の自然と院のキャラクターを相関させた。特にエントランスポーチは木の構造を現しとして、利用者を温かく迎え入れるようなナチュラルなイメージを強調した。帯状の縦のラインは並木のイメージから着想し、リズミカルな配置で立面を適度に分割した。

南側の隣接建物とは距離を取り、採光条件をよくするとともに、医療機器の搬入導線、駐輪スペースの確保、法的な防火規定の緩和を考慮した。

風除室には、昨今の感染症対策への配慮から待合の受付と待機室を隣接させた。これにより風除室内での自動検温で高熱が判明したとき、受付にいるスタッフがその場にいながら窓越しで迅速に対応できる。隔離が必要な場合は、院内に入れず、隣接する待機室へ誘導することができる。待機室には隣接して小診察を設け、バックヤードから医療スタッフが行って利用者への対応ができる。

患者が最も長く滞在する待合は、光を溜める開放的な吹き抜けを設え、建物中心に配置した。高窓で3方から開口部を取り、差し込む光の動きを楽しんだり、通風換気のしやすさに配慮した。ここからぶら下がるようにして付随的な待合空間を各治療室前に点在させ、これらを回遊的な導線でつないだ。患者は状態によっては様々な部屋を行き来する必要がある。待合が中央にあることで、そこから受付や各治療室への患者導線を比較的短くすることができ、受付から診察・リハビリ、精算までの一連の体験でのストレスを軽減させる。

リハビリ室はL字型をした建物の一辺を占めており、比較的独立した空間となっている。ここでは普段のリハビリ治療はもちろん、イベントや交流など多目的に利用する想定がされている。勾配屋根の天井は現しとして、気積を確保して多目的利用に配慮するとともに、ダイナミックな架構と木のテクスチャを見せた。加えて、外部からの視線に配慮しながらも、開口部を連続的に設けることによって隣接公園の緑を視覚的により広く取り入れるようにした。開放的な空間で、患者がのびのびとリハビリや治療ができる場所を目指した。

診察室は南側に配置され、隣地からもセットバックしているため、明るい診察環境を提供できる。事務室はあまりスタッフが滞在することはなく、物品の保管スペースを兼ねるため、西側に配置して、西日や通りの騒音の干渉スペースも担う。2階は主にスタッフルームとなる。

内装はクリニックらしさと清潔感を持った白色を基本とした。一部構造現しや、合板仕上を用いることで、外観と同じく木の質感をアクセントとして取り入れ、親しみやすさや院のアイデンティティを表現している。

規模としては標準的な整形外科のクリニックではあるが、ロードサイドや公園といった周辺環境を生かしながら、より大きな存在感と安心感をこの施設から感じられるようにしたかった。治療プラスアルファの部分で、患者、スタッフ、ここを訪れるすべての人々に対して少しでも貢献できる施設になるよう切に願う。