「個」を超えていく、チームでつくる建築。/vol.15 設計士・伴綾乃

浦建築研究所をより身近に。こちらの「建築コラム」では、建築事例だけでは見えないスタッフの素顔や、社内での取り組みなどもご紹介していきます。第15回は、建築士・伴綾乃さんへのインタビューです。

多彩な人材が活躍する浦建築研究所では、各スタッフが担当するポジションやスキルはもちろん、キャラクターや建築へのスタンスも実に様々。今回は伴さんがチームの中で意識している立ち位置についてのお話から、浦建築研究所として社をあげて取り組み始めている「チームで作る建築」についてなど、伴さんが所属する第二設計室の上司である加原さんを交えてお話をうかがってきました。(以前の加原さんのインタビューコラムはこちら

 

伴綾乃さん。統括設計グループ第二室所属。二級建築士。

決め手は、「何だか和やか」な社内の雰囲気

──伴さんは今年で入社4年目とのことですが、そもそも建築の道を志された理由をお聞かせ願えますか?

伴:はい。昔から「ものづくり」というか「手を動かすこと」がすごく好きでした。その中で仕事として考えた時に、「建築」はものづくりに関わることができ、かつ職業として安定しているイメージがありました。大学の学科(建築デザイン科)を選ぶ時も、学科名に「デザイン」と入っていて楽しそうだなぁと、最初は何となく。すみません、こんな聞き甲斐のない理由で…(苦笑)。

──いえ、最初の動機なんて大概「何となく」ですよね。では浦建築研究所を選ばれた理由は?

伴:私、県内で就職したかったんです。というのも実家に犬がいるのですが、どうしても犬と離れたくなくて…。すみません、こちらも記事に書けるような話ではないのですが(笑)。
でも、県内の設計事務所を何社か見てまわる中で、浦建築研究所が一番雰囲気がよかったんです。何だか和やかというか、上司の方々も優しそうな印象で。

「おっ!そうきたか!」という方向性から

──犬と離れたくなくて...! 就職面接では言えないような素直な回答に非常に好感が持てます。実際に入社されてみて、上司の皆さんは優しかったですか?

加原:えっと…僕は席を外した方がいいかな?(笑)

伴:大丈夫です、優しいです(笑)。本当になんでも話せる関係性で、ちょこちょこ、わがままも言ってしまっているかと思います。もちろん優しいだけじゃなく、仕事においてはスパルタな時もありますが、飴と鞭の両方で育てていただいてます。

──では上司の加原さんから見て、伴さんはどんな印象ですか?

加原:こんな風に、取り繕わず 思ったことを“素直”に話してくれるのが、伴さんのいいところですよね。そして伴さんは、出してくる一つ一つのアイディアがすごく面白いんですよ。「おっ!そうきたか!」みたいな方向から出してくれるというか。

入社したての頃の伴さん。熱心にメモをとる姿が印象的。

「みんな同じ方向」だと、建築が発展していかない。

──アイディアの方向性が面白い。それはどんなシーンで感じられたことでしょうか。

加原:浦建築研究所の場合、一つ計画があった時、まずプランニングがあって、それに対して意匠から何人か選出してチームをつくり、「それぞれの案」を出してもらうんですね。そこで何度か議論のキャッチボールしながら「一つの案に集約していく」という手法を今とっています。

伴:この時は、みなさんで出しあった案の「いいとこどり」をしながら、最終的に加原さんが一つの案にまとめ上げてくださる形でした。

加原:そこにおいては「互いに影響を与え合う」ということがすごく大事だと思っているんです。みんなの案が似通っていたり、同じ方向性だったら、建築があまり発展していかない。なので伴さんの発想は、いつもチームにいい刺激を与えてくれていると思います。

伴:とんでもないです。大ベテランの先輩方に比べたら、知識も経験も、私はまだまだ足りません。その中で、自分はどう貢献できるかなと。「経験がない」からこそ出せる「自由な発想」というのもあるのかもしれないと、なるべくそちら側に振り切ってアイディア出すようにしています。せめて何か議論の「きっかけ」になれたらなと。

こちらは伴さんのアイディアが部分的に採用された提案。「直線的なデザインが多かったので、ならばと曲線的なデザインを提案してみました」

「個人」のアイディアから、「チーム」のアイディアに

──「みんなでアイディアを出しあって、“いいとこどり”をして一つの建築に集約していく」という手法は、なかなか斬新というか、かなりユニークな建築の作り方ですよね?

加原:そうですね。以前は社内でも「それぞれがアイディアを出して、選ばれた個人のアイディアを磨いて本戦に進む(クライアントに提出する)」という一般的なプロポーザルの形式を採用していたんですけれど、「チームとしてのアイディア」に融合させていけないかと。そんな「いいアイディアが生まれる場づくり」というか「チームづくり」に今まさにチャレンジしているところです。

──興味深い試みですね、以前のコラム取材で「最強の設計集団になりたい」というお話を加原さんがされていましたが、その取り組みの一貫ということでしょうか?

加原:そうです。「どうしたら最強の設計集団になれるか」、今まさにその方法を模索しているところで。これまで建築のアイディアって、「個人と結びつきすぎていた」ところがあると思うのです。そこで一旦「個人」と「アイディア」を切り離して、発展させていくことはできないだろうかと。

──アイディアが個人と紐づくのではなく、「浦建築研究所としてのアイディア」に成長すると。けれど「自分のアイディアが通る」ことにモチベーションやプライドを感じる設計士さんもいらっしゃるのではないでしょうか?

加原:そうなんですよね。そこはモチベーションと紐づいたりする部分でもあったりするので、そこまで切り離さずにいかに成立できるか…。難しいところですが、まさに今試行錯誤中です。

伴さんの上司で、統括設計グループ第二室室長の加原雅之さん

「私一人の頭」より「みんなの頭」で考えた方が
絶対に良くなるという“確信”

──ちなみに伴さん自身は、この新しいやり方にジレンマなどはないですか?「自分のアイディア」が「チームとしての大きなアイディア」に吸収されていくことに対しての。

伴:特にジレンマはないですね。自分のアイディアが「何かのきっかけになれたら」とは思いますが、「そのまま通ってほしい」と思っているわけではないので、違和感なく取り組めています。
むしろ、入社前は「新人は設計させてもらえない」と思っていたので、自分のアイディアを提案できる機会があること自体ありがたいですし、チームで議論する中で先輩方のアイディアをたくさん吸収させていただけるので、勉強にもなっています。

──謙虚ですね。どうしてご自身はそういうスタンスになったと思われますか?

伴:どうなんでしょう…。元々自分の主張を通したいと思うタイプではないのと、大学時代にグループ課題などで否定されたり論破されることがあったので(笑)、そこからスタンスを変えていったところはあるのかもしれません。

──なるほど、自分の立ち位置を鑑みて「戦い方」を変えていったと。

伴:何より、この会社には素晴らしいメンバーが揃っているので、「私一人の頭」で考えるよりも「みんなの頭」で考えた方が「絶対より良いものになる」という確信がある、ということが大前提としてあると思います。
なので、自分の案が選ばれなくても「選ばれた案の良いところ」を的確に表現できるようなモデルや資料作りを頑張ろう、という風に考えますね。その中でも、素材感などの細部は指定されていないので、そこで自分なりの提案をして、採用してもらえたら“ラッキー”だなって。

加原:そうなんです、伴さんってBIMモデルや3Dプリンタなど、新技術の習得もすごく早いんですよ。「もうできちゃったの!?」って感じで、いつも助けられています。

伴さんが制作したBIMモデル
伴さんが制作したBIMモデル

同じ条件下でも、設計士によって「全く違う案」が生まれる

──なるほど、会社への信頼感が「チームでつくる建築」を可能にしているのかもしれませんね。ちなみに伴さんがこれまで担当された中で、一番思い入れのある案件などはありますか?

伴:入社して3ヶ月後くらいにお話があった「今江こども園」ですね。計画から、基本設計・実施設計、申請から監理業務まで、ひと通り携わらせていただいた物件だったので、一番思い入れがあります。
この物件は若手の社内コンペで選ばれた2案をお客様に提案して、ご意見を踏まえてさらにブラッシュアップし、最終的に一つにまとめるというスタイルでした。

今江こども園

──同じ条件下で考えた案でも、それぞれ全然違うものですか?

伴:違いますね、見た目からしてもう全然違います。もう一方の案は率直に「楽しそうだな」と感じました。私にはない「複雑に入り組んだ楽しさ」があるというか。

──「こども園」というある種のセオリーがある建築において、全く違うアウトプットが出てくるのは面白いですね。

伴:そうですね。もちろん保育園の設計には法規的に決められていることも多いですが、それ以上の「現場感覚」というものもあって。例えば「ガラスは子ども達がすぐに触るので掃除が大変になる」とか、「この高さに絵本があると、子供達にはとりにくい」といったような、先生方だからこそわかるリアルなご意見。たくさんヒアリングさせていただいて、何度も提案を修正させていただきました。

社内だけに留まらない「チームワーク」

──入社して早々に担当した大仕事だったのですね。振り返ってみていかがでしたか?

伴:大変でしたが、すごく達成感がありました。園の先生方と一緒に、他の絵本館の寸法を測りに行ったり、何度もモデルを作り直したりー‥。なので、本当に“先生方と一緒に”作りあげていった感覚がありますね。社内だけじゃなく、社外の方々とのチームワークを感じさせていただいた経験でした。
竣工後のこども園にうかがった時、先生が「設計してくれたお姉さんだよ〜」って声をかけてくださって、そしたら子ども達が「ありがとうございましたー!」って手を振ってくれて。嬉しかったですね。

伴さんが最もこだわった絵本コーナー。絵本の世界が具現化したような空間

大逆転劇も!?アイディアは「生き物」だから。

伴:でも、これも加原さんが後でドンと構えていてくれたからこそできた案件だったと思っています。もし若手二人だけだったら、先生方も不安に感じられたと思うので。最終的に「より良い方にまとめてくれる」という安心感があったからこそ実現できたと思いますね。

──なるほど、それにしても「それぞれに違う案をいいとこどりして、一つにまとめる」というのは「言うは易し」でも、実際にはなかなか至難の業ですよね?

加原:そうなんですよね。でも、ギリギリまであらゆる可能性を排除したくないというか。極力「判断を後倒しにしている」ところはありますね。そしてチームの皆に迷惑をかけるという…(笑)。
でも「アイディア」ってある意味生き物というか、びっくりするようなことも起きるんですよ。例えば金曜までは「A案で決まりだな!」と思っていたのに、週末に案をねかせながら考えているうちに、「ない」と思っていたB案が週明けいきなり再浮上してきて採用されたり…なんてこともしばしばあって。本当に面白いものなんですよ。

みんなの「色眼鏡」を借りながら「建築」を眺める

──ちなみに、異なるアイディアを一つにまとめるコツってあったりしますか?

加原:そうですね…極力「色眼鏡」をたくさんかけて見るようにする、ということを私は意識しています。

──えっ、通常はかけない方がいいとされる「色眼鏡」を、さらに「たくさん」かける…?

加原:そうです。それぞれの設計者の色眼鏡をお借りして、「その人の目を通して建築を見てみる」ということですね。つまり、批評的な目だけでなく「興味を持って」アイディアを眺めて見るというか。そうすることで、見えてなかったものが、見えてくることがあるんです。でも、この色眼鏡をたくさんかけすぎて、最終的にサングラスみたいに真っ黒になることもあるんですが…(笑)。

──確かに混色を続けると最終的に真っ黒になりますよね(笑)。アイディアの混色ー‥すごく面白いです。

伴:ここ1ヶ月くらい会社をあげて議論していることですよね。「チームで設計するにはどうしたらいいか」と。

──浦建築研究所のすごいところは、チームワークを目標として掲げるだけではなく、実際に「どうしたらそれが現実にできるか」を、時間をかけて議論して実装しようとしている所ですよね。本気度が違うというか。どうしてそこまで「チームで設計すること」を意識されているのでしょうか。

加原:僕も管理職になる前は、「良い建築を“自分”で設計していこう」と、がむしゃらに取り組んできたんです。つまり「個人」と「建築」がすごく結びついていた。けれど年齢が上がるにつれて「個人の限界」のようなものを感じ始めるようになったんですね。「個人」を超えて「いかにして良い建築を作っていけるか」ということの方に、興味が移ってきて。

「個人名」よりも「良い建築」が残っていく方が “よっぽど大事”

──「自分の名前でビックプロジェクトを残したい」という想いはもうお持ちではない?

加原:はい、もういいですね。「名前」なんかより「良い建築」が残っていく方がよっぽど大事というか、そんな気がしているんです。それも「何か一つの建築」のことを指すのではなく、「良い建築ができる仕組みづくり」というかー‥。そしたら何が起きても、チームが機能している限りは「良い建築」が生まれ続けていくのではないかなと。

強いチームであるために、「個」でも強く。

──浦建築研究所としても、今まさに大きな挑戦期にあるんですね。そんな中で伴さんが目指す目標などあればお聞かせください。

伴:そうですね、意見を出すスタンス自体はこれまでと変えずに、そこに「知識」をプラスしていけたらと思っています。法的な知識はもちろん、クライアントの皆さんからいただいたご意見や経験なども含めて。私が今まで先輩方にしてきていただいた分、今度は私が若い人たちに教えることができたらなと思っています。あとは任せてもらえる業務の範囲を広げていきたいですね。一人でも安心して任せてもらえるようになりたいです。

──強いチームをつくるために、まず「個」として強くなりたいということですね。浦建築研究所の“チーム”としての取り組みは本当に面白いので、また定期的に進捗をレポートさせてください。今日はありがとうございました!

(取材:2025年6月)