建築プロジェクトの伴走者、コンストラクション・マネジメント/vol.19 設計士・山岸義徳

浦建築研究所をより身近に。こちらの「建築コラム」では、建築事例からは見えないスタッフの素顔や、建築業界の最旬トピックなどもご紹介していきます。第19回は浦建築研究所が新事業として取り組む「コンストラクション・マネジメント(CM)」について、統括設計グループ本社統括室長の山岸義徳さんへのインタビューです。近年その需要が高まっているCM。どんな業務で、なぜ今求められているのか。そして浦建築研究所としての強みなど、ベテラン設計士・山岸さんの設計へのスタンスと重ねつつうかがってきました。

山岸義徳(よしのり)さん。浦建築研究所取締役、統括設計グループ本社統括室長 兼 第一室室長。一級建築士
最初から最後まで、施主の隣を共に走る
──私自身は今回初めて耳にしたワードなのですが、「コンストラクション・マネジメント(以下 : CM)」とはどんな業務なのか、まずは教えていただけますか。
山岸:はい。「コンストラクション(construction)」、つまり「建築」にまつわる“マネジメント業務”です。これまでは、基本的に発注者が設計・施工をコントロールしていく形でしたが、CM方式は建築の専門知識を持ったコンストラクション・マネジャー(CMr)が、施主の立場から共にプロジェクトをマネジメントします。
具体的には、ある建築プロジェクトが持ち上がったとして、「こういう事業にしたいのだけれど、どう進めていいかわからない」といった初期段階から相談にのり「どのくらい予算がかかりそうか」「補助金はどのようなものがあるか」「企業の中で事業が成立するか」といった検討から、設計者や施工者への発注サポート、そして各工程におけるコストや品質・工期などが適正かどうか、常に施主側の立場からチェックをして事業全体を管理していきます。
いわばプロジェクトの道筋をつけながら、施主と共に伴走するような役割ですね。
──なるほど、設計や施工とはまた別のレイヤーなのですね。これまではそのような役割はなかったのでしょうか?例えば、設計における「監理」の業務など…?
山岸:「企画」という意味では、建設コンサルタントによる「基本構想」や、設計の前段階としての「構想業務」などがありますが、それはあくまで“構想”です。それ以降は設計・施工と次々に担当が変わっていってしまいます。また、設計士が行う「監理」は、施工が図面通りに行われているかをチェックするもので限定的です。一方でCMは最初から最後まで一貫して、発注者の立場からマネジメントする点が大きな特徴といえます。
また、設計・施工をそれぞれのセクションに任せておくと「各々がやりたいことをやる」ということも起こりえるわけです。例えば、設計事務所なら必要以上にデザインにこだわってしまって予算が足りなくなったり、施工会社も自分たちにとって都合のいい工法やスケジュールに変えたがったり…。そこにCMrが入ることで、事業全体を通した最適解を考えることができます。
高まるCMの必要性
──専門家が伴走してくれるというのは心強いですね。建築業界では「CM」はすでに一般的なものなのでしょうか?
山岸:関東や関西などの都市部ではかなり普及していますが、日本海側はまだ「これから」という状況です。北陸ではCMができる企業がこれまでなく、東京など首都圏から大手のCM事業者を招いていました。
──なぜ北陸をはじめ、地方では導入が進んでいないのでしょう?
山岸:公共事業でいえば、行政の技術者がある程度は企画をたてる役割を担ってきたというところもありますし、うちのような設計事務所が、“設計業務の延長”としてサービス的に一部分を担ってきたということもあるでしょう。ですから、これまであまりその必要性が認知されてこなかった、というのはあると思います。
──では、なぜ今CM事業に乗り出すのでしょうか
山岸:今、地方公共団体でも企業でも「技術者不足」が問題になっていますよね。手元に専門的な知識を持った技術者を抱えられなくなってきた中で、建築プロジェクトに対して「進め方がわからない」もしくは「正しいのか判断できない」という状況が生まれています。かつ、建築プロジェクト自体がどんどん複雑化してきている。
しかし、建築プロジェクトとは大きなお金が動く、失敗が許されないものでもあるわけです。だからこそ、建築の専門知識を持ったプロが施主をサポートする、CMへのニーズが高まってきているのだと思います。
“前例なき試み”の水先案内人としても
山岸:また、「前例がない建築プロジェクト」に挑むこともあるでしょう。行政はじめ、基本的にこれまでの「前例」と照らし合わせて判断されることが多いですが、前例がない場合もあれば、そもそもその前例が正しかったのか、という議論もある。
例えば、有名建築家に設計を依頼して、想定外のデザインが上がってきたとします。その場合に「その中身が適正か」は、施主側で判断し交渉することは難しい。そのまま進めて行った結果、見積もりが法外な金額に…なんてことも起こりえます。
──ありそうなシチュエーションです…!見積もりに関しても、この物価高を背景に「資材が高騰していて」と言われたら、こちらはのまざるえない感があります。
山岸:なのでCMが入る大きな意義として「正確な情報を施主に提供して、判断できる状況をつくっていく」ということもあります。「建築」というものは全て、施主のためにやっているものですから。
──なるほど。ブラックボックスをなくすというか。浦建築は「共に築く、建築をひらく」をテーマとしていますが、CMはまさにその理念にもどこか通ずるところがありますね。
細部への眼差しと、俯瞰したメタ視点
──CMは、通常設計士が担当するものなんですか?
山岸:いや、必ずしもそういうわけではないですよ。「コンストラクション・マネジャー(CMr)」という資格があり、CMを専門とされているところもあります。弊社は4年前からCM協会にも入り活動しています。
──山岸さん自身、約30年以上のキャリアを持つベテラン設計士でもありますが、「設計」と「CM」にはどんな違いを感じますか?
山岸:そうですね、設計が「建物をどうつくるか」を考える仕事だとすれば、CMは「プロジェクト全体をどう成立させるか」を考える仕事なので、自分の中では“別もの”と認識してます。ただ、設計の経験があるからこそ、全体の筋道が“見えてくる”という感覚はありますね。
──設計士がCMに携わることで得られる視点などはあるでしょうか?
山岸:設計は材質など一から検討して細部まで詰めていく、とても細かい仕事でもあります。一方でCMは、プロジェクトの全体像の把握や、プロジェクトが企業や社会の中でどういう意味を持つのか、といったメタ視点で捉える必要がある。この両方の視点を行き来できることは、設計にとってもプラスになると思います。
どちらの気持ちもわかる、仲介的役割
──設計者が行うCMの良いところはどんなところでしょう。
山岸:一つは、設計施工側の気持ちも汲み取れる、ということもあるでしょうね。これまで北陸で行われてきたCMは、“コストカッター”として認識される事例が多かったのではと感じます。「クライアントに安くと言われたから」と建築費をどんどん削っていくので、あまり良いイメージを持たれていなかった。もちろん、建築費が安くなった方が施主は助かるし、当然無駄は削るべきです。しかしコストカットが先行し、必要な質や機能が担保できなくなればもはや本末転倒ですよね。
──なるほど、どちらの気持ちもわかるというか、施主の味方でありながら建築というものへの“愛”もある。
山岸:CMの仕事は単なるコストカットではなく、事業全体として“まるっとおさめる”ことだと思っています。その上で、関わるすべての人と目的意識を共有し、良好な関係を築きながら進めていくことが重要なのではないでしょうか。
「クライアントの不利益を防ぐ」という大前提
山岸:とはいえ、もちろんクライアントに不利益になることがあれば、しっかりと是正を求めていきます。中立的な立場であることがCMでは重要です。
──「クライアントの不利益を防ぐ」という言葉は、他の社員インタビューでも度々耳にする、もはや山岸さんの格言だと思っています。
山岸:いやいや(笑)、それはCMに限らず仕事における「基本の“き”」ですよね。お客様が、企業であれ個人であれ、その事業資金は、“湧いて出たお金”じゃない。汗水垂らしてやっと積み上げてこられたものを元手に、我々は事業をやろうとしているわけです。
だからこそ「お客様が望むことをその金額の中でやる、不利益を防ぐ」というのは大前提だと思っています。その上で、より良い提案を重ねていくべきだと考えています。
セオリーなきCMの世界
──実際に山岸さんが担当したCM案件について教えていただけますか。
山岸:はい。昨年完了した、静岡県浜松市のシブヤ精機株式会社の工場建設プロジェクトです。シブヤ精機さんは金沢にある「澁谷工業」さんの系列会社で、そのご縁でお声がけいただきました。今回はすでに設計・施工を担当する会社は決まっており、CMとしてはややイレギュラーなパターンです。
設計・施工を一社に依頼するケースは澁谷工業さんとしてもまれだったようで、「ちょっと中身を確認してほしい」というご相談をきっかけに、その先の監修もご依頼いただき、CMとして受けさせていただいたところからスタートします。
山岸:今回は設計に取り掛かる前に、まずシブヤ精機さんの建築において必ず担保すべきグレードや品質などの“設計条件”をまとめた仕様書を作成しました。
──仕様書の作成。これもCM業務の一環なんですね。
山岸:いや、特にそういうわけではないのですが、お話をうかがう中で「円滑にプロジェクトを進めるためにはあった方がいい」と判断して提案したものです。
CMという仕事は「これがCMです」といった確固たるセオリーがあるわけではなく、“こちらからの発信”が基本です。「クライアントが求めるものを達成するために何が必要なのか」を常に考えながら提案していくので「その会社がどういうスタンスでCMに臨んでいるか」で、内容はかなり変わってくると思いますね。
──なるほど、セオリーがないからこそ、「どこに依頼するか」が大事になってきそうですね。
山岸:そうともいえるかもしれません。そして、その後は設計を一緒に進めながら、出来上がった図面や見積もりは、全て弊社の方でチェックしました。直すところは直していただき、工事のステップに移行します。
全技術者が揃う組織設計事務所
アートに強いグループ会社
──チェック機能には、“組織設計事務所”としての浦建築研究所の強みが存分に生かされそうですね。
山岸:そうですね。弊社には「意匠/構造/設備」の全技術者が揃っているので、それぞれの見識を取り入れながら、内容を細かくチェックすることができます。
また、浦建築研究所ならではの強みでいえば、グループ会社である「ノエチカ」と連携し、アート作品を取り入れる提案も今回行いました。シブヤ精機さんは農産品の選別機械のトップメーカーなので、先進的な事業内容や自然との共生、浜松という地域性を絡めた作品をアーティストに依頼して制作いただきました。ノエチカでは、アーティストの選定から作品の提案、設置までのコーディネーションを一貫して行うことが可能です。今回は建築が完成してから作品を設置しましたが、建築自体にアートを取り込むような提案もできます。
──案件がひと段落されて、いかがですか?
山岸:そうですね。「CM」として正式に依頼を受けたのは、私自身は今回初だったので、まずは無事にプロジェクトが完了したことにホッとしています。正解は何か模索しながらも、常に「クライアントの立場に立って何が必要か」を軸に動いてきたつもりです。結果としてお客様にも喜んでいただき、プロジェクトを共にした設計・施工会社さんからも「また一緒に仕事しましょう」といっていただけて嬉しかったですね。
一緒に、ものづくりをする面白さ
──山岸さんがCM担当に任命されたのも、設計士としてさまざまなタイプの建築を担当してきた30年のキャリアがあってのことだと思います。そもそも山岸さんは、どうして設計の道に入られたのかうかがえますか?
山岸:最初はなかば強制的にというか(笑)、実家が建設会社を営んでいたので「お前は建築をやれ」と、建築科がある高校に進学しまして。大学でも工学部に入り、在学中にアルバイトで訪れたのが浦建築研究所だったんです。そこで「建築って面白いな」と素直に思ったことがきっかけで入社し、今に至る、という感じですかね。
──ある意味意図せず入った建築の世界に、ここまでのめりこまれていったのは、やはり何か手応えが?
山岸:そうですね。私は元々、人と接するのがあまり得意な方ではなかったんです。そんな自分が、社長さんや首長さん相手にもプレゼンテーションをして、実際に建物が建っていく。「すごいことをしてるのかもしれない」と、一度経験するとやみつきになって。
そして、さまざまな案件を経験するうちに自分の中の知識も増えていき、お客様にいろいろな角度から提案ができるようにもなってくる。“一緒にものをつくっていく”ということができるようになってから、さらに建築が面白くなってきたという。
“関係性”のマネジメント
──いち設計士としての信条はありますか?
山岸:いろんなタイプの設計士がいると思いますが、私は「デザイン」へのこだわりは強くありません。機能性や使いやすさ、コストも大切ですし、それよりも「楽しくものづくりを進めたい」。クライアントも、設計者も、施工者も、みんなで一緒になって「やっぱりやってよかった」と喜び合えるようなものを作りたいと思いながら、いつもプロジェクトに取り組んでいますね。
──まさに「CM向き」じゃないですか…!
山岸:そうですね(笑)。これまでずっとそのようなことをやってきたので、CMというものに対しても違和感なく取り組めています。
ーープロジェクトが無事に完了するだけでなく、やはりそのプロセスも良好じゃないといけないというのは経験としてあるのでしょうか?
山岸:めちゃくちゃありますね。“人間関係”って、ものづくりをする上でものすごく大切じゃないですか。一緒にやっていこうという時に、いがみ合っていても楽しくもないし、いいものができるわけがないので。
AIに、CMはできない?
──人間関係のメンテナンスも、CMの範疇なんですね…!
山岸:そういうわけではないですけど、自分はそれを強みにやっているというだけですね。
──関係性を良好に保つ秘訣ってありますか?人生の教訓としてお聞きしたいです。
山岸:どうでしょう…主観で見ないで、とにかく「客観的に見る」ということでしょうか。一歩引いて冷静に見た上で、思ったことは素直に、誠実に相手に伝えます。モヤモヤを抱えたまま進めるというのが、一番よくないですよね。その上で、相手が機嫌を損ねてしまったら「ごめんね」とすぐ謝る(笑)。
あとは「対会社」ではなく、「人」として深く滑り込んでいく、ということは個人的に大事にしてることかもしれません。
──なるほど、「人として滑り込む」。いくらAIでも、これはできない。
山岸:そうですね。そういう意味でいうと、CMはAIにはできない仕事なのかもしれません。近い未来「設計」はAIが担うようになるともいわれていますが、どういう風にプロジェクトを組み立てて、「その人」に合わせながらマネジメントをしていくというのは人間にしかできない。そういう意味では建築設計が生き残る道は、CMにあるのかもしれないと思ったりしますね。
(取材:2026年2月)