半導体産業の進化と共に。アップデートし続ける工場建築 /vol.22 株式会社フェローテック

浦建築研究所のミッションステートメント「共に、築く」。こちらのコラムでは、私たちと共にプロジェクトに取り組んでくださっている方々へのインタビューをご紹介しています。今回は、半導体製造装置向けの部品などを手がけ、グローバルに事業を展開する「株式会社フェローテック」のセラミックス事業部顧問・千間孝司さんにお話をうかがいました。

日進月歩で技術革新が進む半導体産業。その製造工程に欠かせないファインセラミックスの生産拠点を、約30年にわたり建築設計の面から支えてきたのが浦建築研究所です。第一工場から第三工場まで、互いに知識や経験を積み重ねながら、共に進化してきた両社のものづくりについてご紹介します。

 

浦建築研究所・意匠設計の土田外志弘(左)とフェローテック石川工場の千間孝司さん(右)

「見せる」を前提に設計された、オープンな工場

──本日はよろしくお願いします。それにしても開放的なエントランスですね。工場というより、おしゃれなオフィスのようです。

 

千間: ありがとうございます。工場見学など来客が多いものですから、エントランスだけでなく、工場内もゆったりと見ていただけるよう、浦建築さんに設計いただいています。

 

──工場というと、どこかクローズドなイメージがありました。

 

千間: 今はもう時代が変わりましたね。特に私たちのような業界は「間違いのない製品をつくっている」ことを認めていただけなければ、商売が始まりません。
監査も頻繁にありますし、海外からのお客様も多いです。完成した製品だけでなく、製造工程ごとに厳しいチェックが入るので、工場全体を「見ていただく」ことを前提につくっています。

フェローテック石川第三工場のエントランス

半導体製造に欠かせない「ファインセラミックス」

──石川工場では、主に「ファインセラミックス」を製造されているそうですね。どのようなものなのでしょうか。

 

千間: 一般の方には耳慣れない言葉かもしれませんが、簡単にいうと「高度な機能を持ったセラミックス」です。
陶石などの天然原料からつくられる従来のセラミックスに対して、ファインセラミックスは、高純度に調整された原料を用いて製造する「求められた性能を持つセラミックス」のことです。半導体製造装置の部品をはじめ、産業機械のさまざまな分野で使われています。

 

──セラミックスというと、陶磁器などの工芸品のイメージも浮かびますが、なぜ半導体分野でも重宝されるのでしょうか。

 

千間: セラミックスには、優れた絶縁性や耐熱性、耐久性があります。金属などの素材では、なかなか代替できない性能です。さらに、体積抵抗率をはじめとした電気的特性などを細かく調整することで、精密機械に求められる性能を実現しています。

技術者としてキャリアを積み、現在はセラミックス事業部の顧問を務める千間さん。工場の建築プロジェクトも長年ご担当いただいています。
厳しい品質管理のもと製造されるファインセラミックス
機械加工が容易なマシナブルセラミックスも製造(画像提供:株式会社フェローテック)

第一工場から、30年にわたる浦建築との歩み

──今回の第三工場も浦建築研究所が設計を担当していますが、両社のお付き合いはいつ頃から始まったのでしょうか。

 

土田: 千間さんには、フェローテックとして合併される前からお世話になっています。1997年に竣工した石川工場(第一工場)の設計に始まり、かれこれ約30年になりますね。私自身も、増築から第二工場、第三工場と、継続して設計を担当させていただいています。

 

千間: もともと金沢市松村に私どもの工場があったのですが、手狭になってきたので、浦建築さんに新しい工場を設計していただいたのが始まりです。それまではプレハブの工場で作業していたので、新しい工場がとても快適で感激したのを覚えています。

長年フェローテックの石川工場を担当してきた浦建築研究所・土田外志弘

──現在のフェローテックに至るまでには、会社としてもさまざまな変遷があったのですね。

 

千間: そうですね。フェローテックは、さまざまな会社が一つになって発展してきた企業で、現在は事業部体制で経営しています。その中で石川工場は、「セラミックス事業部」にあたります。

 

現在のセラミックス事業部のもとになっているのが、1984年に創業の「ホトンセラミックス株式会社」という会社で、石川県の工業試験場で開発された素材を製造・販売していました。その後、いくつかの変遷を経て、2008年からフェローテックの傘下に入っています。

石川県白山市漆島町にある石川工場(第一工場)。浦建築研究所が設計を担当(1997年竣工)

磁器産業の土壌から生まれた、新たなセラミックス産業

──創業当初から、セラミックスの製造を手がけていたのでしょうか。

 

千間: そうです。セラミックスというと、硬くて削れないイメージがあると思いますが、当時、アメリカのメーカーが容易に加工できるセラミックスを開発して販売していたんですね。

石川県は昔から磁器生産が盛んで、陶石も採れます。その陶石の構成元素が、新たなセラミックス素材とよく似ていることから、石川県工業試験場が研究開発に取り組み、その製造販売を始めたのが私たちの事業の原点です。

 

──石川県の伝統産業である磁器生産の土壌が、新しい産業につながっていったのですね。

 

千間: 2000年代に入る頃から、半導体需要の増加に伴ってセラミックス産業も活況を呈し、工場を次々と拡張するようになりました。

フェローテックの傘下に入ってからは、関西の工場をマザー工場として、中国にも生産拠点を広げていきましたが、その後、国内での半導体生産を重視する方針が打ち出されました。そこで国内の工場増設を検討する中で、セラミックス製造の歴史があり、かつ広い土地も確保しやすい石川県に、事業を集約していくことになったんです。

浦建築が設計担当したフェローテック石川第二工場

性能とコストの最適解を導く、建築コストマネジメント

──石川県にセラミックス事業の基盤を集約する中で、今回の第三工場が誕生したんですね。

 

千間:第三工場の建設にあたっては、浦建築さんには土地探しの段階から相談に乗っていただきました。すでに工場に入れたい機械などは決まっていたので、必要な設備などを洗い出して、素人なりにざっくりと考えたレイアウトを見ていただいて、現実的な設計に入っていただきました。

 

土田:ご希望を丁寧にヒアリングしながらも、建築基準法や各種法規とも照らし合わせながら形にしていきます。当初いただいた案だと、現在の1.5倍の面積になる予定だったんですが、金額を計算して現実的なところに落ち着いていったという感じです。

 

──まさに「共につくる」ですね。土田さんは、一級建築士でありながら、建築コスト管理士でもあります。

 

土田:はい。年々建築コストが上がっていて、もはや過去の事例が全く参考にならないような時代になってきています。クライアント様のご希望と、現実的なコストがある中で、性能を極力保ちながらどこで金額を抑えていくかーー。落とし所を考えることも建築士の重要な仕事だと感じています。

 

石川県最大の一級河川である手取川のすぐそばに佇む石川第三工場

工場における“居住性”という視点

──今回の第三工場では、設計にあたってどのようなことを工夫されたのでしょうか。

 

土田: 今回の敷地は、手取川のすぐそばにあるというロケーションが大きな特徴なので、まずはそこを生かしたいと考えました。
例えば、皆さんが集まる食堂は、川の景色を楽しめる窓側に配置してはどうだろうかと。また、夏には川北の花火大会もここから見えるので、花火も皆さんで眺められたらと、テラスも広く設けています。

 

千間: でも、実はまだ一度も花火を見られていなくて…。昨今の半導体需要で、三交替制で工場をフル稼働しても追いつかないほど大忙しの状況でして。そんな中、一生懸命働いてくれているみんなに「花火を見よう」とは、なかなか言い出せずにいます(笑)。

手取川に面した社員食堂

土田: テラスまで出なくても、休憩中の方々が少しでも花火を楽しめるように、廊下の突き当たりにも窓を設けているんです。そこから束の間でも花火を眺めて、癒やしを感じてもらえたらうれしいですね。

 

──そんな細かなところにも、心遣いがあったのですね。

 

千間: 私たちは、一日のうち3分の1以上は工場にいるわけでしょう。だからこそ、少しでも「居住性」を高め、仕事においても効率的に進めたいという思いがあるんです。おかげさまで、第一、第二、第三工場と、どんどん居心地が良くなっています。同じ時期に工場を作っていた、熊本や仙台、青森からもこの第三工場の視察にきていましたね。

 

──工場にも“居住性”という視点は大切なのですね。

 

土田:多目的ホールにはフィットネスマシンなども配置され、社員の皆さんが休憩時間に利用いただけるようにもなっています。フェローテックさんの工場を設計する際には、工場であっても、その建物の「顔になる空間」をどうつくるかということを常に心がけていますね。

食堂に設けられたキッチンスペースとカウンター席
フィットネスマシーンなども設置された多目的ホール

専門性が求められる工場建築には“チーム”で

千間: もちろん、工場である以上、意匠性だけでなく「機能性」や「生産性」が何よりも求められます。浦建築さんには、そのあたりも十分に考慮して、動線計画から設備まで設計いただいています。

 

土田: 半導体製造に用いられる精密部品をつくる工場では、温度や湿度などの空調管理はもちろん、空間の密閉性や室内の圧力管理などにも、高い性能が求められます。そうした製造環境の要件に対応できるよう、弊社の設備部門とも緊密に連携しながら、建築全体を考えていきます。

 

──工場建築には、本当に幅広い専門知識が必要なのですね。そういう意味でも、数々の工場建築の実績があり、設備や構造部門も社内に擁する浦建築研究所の強みが生かされているように感じます。

 

千間: そう思いますね。工場の設計は、それぞれの専門知識を持った人が集う「チーム」で臨まないと難しいと思います。よろしければ、今から工場の中をご案内しましょうか。

「土は曲者、火は魔物」
生き物のような素材と向き合いながら

──広々とした廊下から、各工程をガラス越しに見学できます。窯がずらりと並び、窯詰めの様子も。「ファインセラミックス」といえど、やはり「焼き物」なのだということを、改めて感じます。

 

千間: 私たちのセラミックス業界にも「土は曲者、火は魔物」という言葉があります。原料の配合を調整し、焼成時の収縮率などもあらかじめ計算して、できる限りコントロールしていきます。そして最後は、人の手で研磨しながら微調整して仕上げます。

 

土田: 窯場の床に使われているコンクリートも、生き物のようなところがあるんですよ。温度変化や乾燥などによって、ひび割れが生じることがあるので、意図しない場所で割れないよう、あらかじめ設計段階で床に目地を入れています。

竣工当時の窯場の様子(※稼働している現在の工場内は、企業秘密のため撮影禁止)

千間: ここには竣工時に計画当初の窯の台数を設置していましたが、フル稼働しても生産が追いつかない状況の為、土田さんに相談してさらに30%増の台数を増やせるように設計して頂いたところなんです。

 

──当初の想定を大幅に上回る忙しさなのですね。半導体産業の勢いを、現場でも実感されていますか。

 

千間:実感していますね。九州や北海道に続いて、北陸も“半導体特区”に指定され(※)、この勢いはますます加速していくのではないでしょうか。当社としても、新たに第四工場の建設も計画も始まっています。

 

(※)…国の「地域未来戦略」において、北陸エリアが九州、北海道に続くAI・半導体の集積地と位置付ける方針が2026年7月に閣議決定された。

 

──第三工場ができたばかりですが、もう次の工場の計画が立ち上がっているんですね。半導体業界は勢いがありますね。

 

千間:これでもまだ遅いと言われるくらいで(笑)。中国などはやはりスピード感が違います。日本の半導体復興に向けて、セラミックス事業部創業の地・石川から、最大限力を尽くしていきたいと思っています。

ノウハウと信頼関係を積み重ね、進化する工場建築

──最後に、約30年にわたり浦建築研究所と共に工場づくりを続けてこられたことについて、どのように感じていらっしゃいますか。

 

千間: やはり、良かった点も改善すべき点も含めて、互いにノウハウが蓄積されていくことでしょうね。その経験が次の建物にも反映されるので、工場がどんどん良くなっていく。浦建築さんには、私たちが何を考えているのか、もう言葉にせずとも理解していただいているように感じますよ。

 

土田:半導体産業の最前線を支えるフェローテックさんの工場を担当させていただくたびに、私たち自身も新たな技術を必死に勉強して“アップデート”させていただいているように感じます。これからも、建築と共に進化し続けていきたいですね。

(取材:2026年10月)